2026年7月、クレジットカード売上の早期決済代行を行っていた全東信が破産手続きの開始決定を受けました。
報道によると、飲食店など約2万店で売上金の入金が滞り、被害額は50億円以上になる可能性があるとされています。帝国データバンクは、全東信の負債額を約1,259億円と発表しています。これはクレジットカードそのものが破綻したのではなく、店舗への入金を仲介していた事業者の破綻ですが、飲食店にとっては決済代行会社に売上金を預けるリスクを考える出来事となりました。
こうした状況の中で、日本円のステーブルコイン「JPYC」を飲食店の決済に利用してもらおうという動きがあります。
JPYCは、2025年10月に発行が始まった、日本円と1対1で交換できるように設計された電子決済手段です。公式サービスのJPYC EXでは、日本円からの発行と日本円への償還が可能で、発行・償還自体の手数料は無料です。ただし、銀行の振込手数料やブロックチェーン上のガス代などが発生する場合があります。
店舗の手数料が安くなるだけでは、お客様は動かない
飲食店にとって、クレジットカード決済の手数料は大きな負担です。
一般的なクレジットカード決済では、店舗側に3%前後、契約条件によってはそれ以上の決済手数料がかかります。売上が100万円なら、約3万円が決済手数料として差し引かれる計算です。
しかし、これはあくまで店舗側の事情です。
日頃からクレジットカードを使っているお客様にとっては、次のようなメリットがあります。
・ほとんどの店舗で利用できる
・支払いが簡単である
・カードのポイントが付く
・代金を後日まとめて支払える
・トラブル時にカード会社へ相談できる場合がある
消費者庁も、加盟店との間で問題が生じた場合、クレジットカード会社に相談できることがあるなど、現金払いより安心できる面があると説明しています。
そのため、飲食店から「当店の手数料が安くなるのでJPYCを使ってください」と言われても、お客様にとっては積極的に切り替える理由になりません。
新しいウォレットを準備し、本人確認を行い、銀行からJPYCを購入する手間を考えると、これまでどおりクレジットカードを使いたいと思う人が多いのは自然なことです。
クレジットカードとJPYCを利用者目線で比較
| 比較項目 | クレジットカード | JPYC |
|---|---|---|
| 始めやすさ | すでに持っていればすぐ使える | 本人確認、ウォレット、入金などの準備が必要 |
| 利用できる店舗 | 非常に多い | 現時点では対応店舗が限られる |
| 支払い時期 | 後払いが中心 | 保有しているJPYCから支払う |
| ポイント | カードごとのポイントが付く場合がある | 標準のポイント制度はない |
| 使いすぎ対策 | 後払いのため使いすぎる可能性がある | 用意した残高内で使えば管理しやすい |
| 店舗側のコスト | 決済手数料がかかる | カードより低コストになる可能性がある |
| トラブル対応 | カード会社の相談・補償制度がある | 店舗の返金対応やウォレット管理が重要 |
| 資金の管理 | カード会社や銀行を通す | 利用者自身のウォレットで管理する |
現状では、単純な使いやすさや普及率では、クレジットカードの方が有利です。
だからこそ、JPYCを普及させるには、店舗側のコスト削減だけでなく、その一部をお客様へ還元する仕組みが必要だと思います。
JPYC払いを選ぶ、分かりやすいメリットを作る
例えば、3,000円の食事をした場合を考えてみます。
クレジットカードのポイント還元率が1%なら、お客様が受け取るポイントは30円相当です。
一方、JPYC払いで2%引きになるなら、支払額は60円安くなります。お客様はカードのポイントよりも30円分多く得をします。
仮に店舗がカード会社へ3%の手数料を支払っていた場合、3,000円の決済手数料は90円です。JPYC払いのお客様に60円を還元しても、ほかの利用コストを考慮する前の単純計算では、店舗側にも30円分が残ります。
つまり、店舗だけが得をするのではなく、削減できたコストをお客様と分け合う形です。
「JPYCなら2%引き」
「初回のJPYC払いは5%還元」
「JPYC払いで次回来店時に使える100JPYCをプレゼント」
このように、お客様がその場で実感できるメリットがあれば、普段クレジットカードを使っている人も、JPYCを試してみようと思いやすくなります。
使いすぎを防ぎたい人にも向いている
クレジットカードは便利ですが、実際に銀行口座から引き落とされるまで時間があるため、今月いくら使ったのか分かりにくくなることがあります。
JPYCを「今月の外食費として1万円分だけ用意する」といった使い方にすれば、あらかじめ決めた範囲で支払えます。
・今月のランチ代
・旅行中の飲食費
・家族の外食予算
・地域のお店で使うお金
このように目的別に残高を分けて考えることで、後払いではないデジタルのお財布として利用できます。
好きなお店を直接応援できる
JPYC払いには、単なる値引き以外の意味もあります。
クレジットカード決済では、複数の事業者を通ってから、店舗へ売上金が入金されます。JPYCでは、店舗のウォレットへ直接送金する仕組みを作ることができます。
お客様がJPYCを使うことで、決済手数料として外部へ出ていた金額の一部を、料理の材料費、従業員の給与、新しいメニューの開発などに回せる可能性があります。
「いつも通っている個人店を応援したい」
「地域の飲食店にできるだけ多く売上を残したい」
このような気持ちを持つ人にとっては、JPYC払いそのものが応援の方法になります。
それでも、いきなり完全移行するのは難しい
JPYCには、まだ課題もあります。
JPYC EXを利用するには本人確認が必要で、個人の場合はマイナンバーカードを使った手続きが案内されています。発行・償還は3,000円からで、銀行振込やウォレットアドレスの登録も必要です。
また、利用するウォレットや送金方法によってはガス代が発生するほか、送金先の間違いや秘密鍵・認証情報の管理など、クレジットカードにはない注意点があります。ただし、HashPort Walletの指定された決済や送金では、ガス代を利用者が負担しないガスレスの仕組みも提供されています。
店舗側についても、JPYCなら必ず決済コストが完全にゼロになるわけではありません。
決済システムの導入費、ウォレット管理、ガス代、日本円に戻す際の銀行関連費用、会計処理などを確認する必要があります。
そのため、クレジットカードを突然廃止してJPYCだけにするのではなく、当面は両方を利用できるようにする方法が現実的です。
お客様に切り替えをお願いするのではなく、選びたくなる仕組みを
JPYCの普及に必要なのは、「お店が困っているから使ってください」というお願いだけではありません。
・カードのポイントより分かりやすい値引き
・初回利用者への還元
・次回来店時に使えるJPYCのプレゼント
・スマートフォンの設定を手伝う案内
・少額から試せる仕組み
・クレジットカードも引き続き利用できる安心感
こうした環境を整えることで、お客様は無理に切り替えさせられたのではなく、自分にメリットがある支払い方法としてJPYCを選べるようになります。
クレジットカードには、使いやすさ、ポイント、後払い、相談窓口など、長年かけて作られた強みがあります。
JPYCが飲食店で広がるためには、その強みを否定するのではなく、クレジットカードにはない「その場で得をする」「使いすぎを防げる」「好きなお店を直接応援できる」という価値を、分かりやすく伝えることが重要です。
店舗の手数料削減と、お客様のメリットを両立できたとき、JPYCは初めて、クレジットカード利用者にとっても使ってみたい決済方法になるのではないでしょうか。
HashPort Walletなら、ガス代を負担せずにJPYCを使える場合もある
JPYCなどのステーブルコインをブロックチェーン上で送金する際は、通常「ガス代」と呼ばれるネットワーク手数料が必要になる場合があります。
利用者にとっては、JPYCとは別にガス代を支払うための資産を用意する必要があり、これがステーブルコイン決済を難しく感じる原因の一つになります。
この問題を解決する方法として利用できるのが、「HashPort Wallet(ハッシュポートウォレット)」です。
店舗が「HashPort Wallet for Biz」を導入しており、お客様がHashPort Walletからステーブルコイン決済を行う場合、HashPortがガス代を負担するため、利用者はガス代を支払わずに決済できます。HashPort Walletの利用者間送金など、HashPortが指定する一部の利用方法についても、ガスレス化されています。
実際に、お好み焼専門店「千房」で行われているJPYC決済の実証実験でも、HashPort Walletを使った決済は手数料無料と案内されています。
クレジットカードを使ってきた人にとって、支払いのたびにガス代を計算したり、別の資産を準備したりする仕組みは、大きな負担になります。
HashPort Walletのガスレス決済を利用できれば、
・JPYC以外の資産をガス代用に準備しなくてよい
・支払金額とは別のネットワーク手数料を気にしなくてよい
・一般的なスマートフォン決済に近い感覚で利用できる
というメリットがあります。
ただし、HashPort Walletを使えば、あらゆるJPYCの送金が無条件で無料になるわけではありません。ガスレスの対象は、HashPort Wallet for Bizの導入店舗での決済や利用者間送金など、HashPortが指定する利用方法です。外部ウォレットや対象外のサービスへ送金する場合は、ガス代が発生する可能性があるため、送金前にアプリの表示を確認する必要があります。
こうしたガス代を意識せずに利用できる仕組みが広がれば、クレジットカード利用者にとっても、JPYCを試す際のハードルが下がるのではないでしょうか。
