TRAE IDEおよびSOLOの概要と設計思想
TRAE IDE(読み方: /treɪ/)は、TikTokの開発元で知られるByteDance社が2025年にリリースしたAI統合開発環境です。VS Codeをベースにフォークして作られており、従来のIDE機能にAIアシスタントを深く組み込んでいるのが特徴です。単にエディタの横にチャットbotを付けるだけではなく、「自律エージェントが計画・コーディング・テスト・デプロイまで実行する」という大胆なアプローチでIDE全体を再構想しています。開発者にとっては常駐のAIペアプログラマーのような存在で、コードの質問応答から自動補完、さらにはプロジェクト全体の構築まで担います。
特に革新的なのが「コンテキスト・エンジニア (Context Engineer)」というコンセプトです。これはAIがコード単位の支援に留まらず、開発の意図を理解し全工程を考え・計画し・実装まで主体的にこなす存在を指します。TRAEではエディタ、ターミナル、ブラウザ、ドキュメントビューなど開発に必要なツール群を一つのワークスペースに統合し、AIエージェントがそれらを駆使して目的達成まで動く設計になっています。従来、要件定義→コーディング→テスト→デプロイと分断されていたフローを、AIがシームレスにつなぐことで「理解→実行→納品」の流れを高速化することを目指しています。これは、複数のAIツールを個別に使い分けていた従来のやり方が非効率であったという問題意識から生まれています。

まとめると、TRAE IDEは「10倍速のAIエンジニア」を謳う高度なAI搭載IDEであり、設計思想は「AIファーストの開発体験」です。開発者が指示を出し人間は創造性に集中し、反復作業や情報検索はAIエージェントに任せるという次世代の開発スタイルを実現しようとしています。
主な機能と特徴
TRAE IDEおよびその自動エージェント機能「SOLO」には、以下のような主な機能があります。
- 自動エージェント開発(SOLOモード): もっとも注目すべき機能がSOLOモードです。これはAIが要件定義からコーディング、テスト、デプロイまで開発プロセス全体を自律的に遂行するモードで、「AIを運転席に座らせる」イメージです。ユーザーが目標や要件を与えると、SOLOエージェントがプロジェクトを丸ごと計画・構築し、バグ修正や機能追加まで自動で行います。実際、「TRAE SOLOモードでは、初期要件から最終デプロイまで開発フロー全体を自律的に処理し、人間は統合ビューで進捗をモニタできる」と公式も説明しています。SOLOエージェントはチャットパネル内のAIを単なるコパイロット(補佐役)から自立した開発者**へと昇華させたもので、必要に応じて複数ファイルの編集、依存関係のインストール、テストの実行、デプロイ操作まで実行可能です。このモードはまさにTRAEの核となる特徴で、後述するユースケースでも詳細を述べます。
- チャットモードとビルダーモード: TRAEにはインタラクティブなChatモードと、自動構築を行うBuilderモードの2つのAIモードがあります。Chatモードではコードに関する質問応答(Q&A)やリファクタリング依頼、正規表現の生成など対話形式の支援が可能です。一方Builderモードでは「ユーザーが実現したい機能」を自然言語で指示すると、AIがタスク分解してコードを書き、テストを実行し、プレビューを提示するという一連の流れを自動で行います。たとえば「REST APIでユーザー認証とログ記録を作成して」と依頼すれば、必要なファイルを生成し、テストを通してからパッチをコミットするところまでエージェントが行います。このBuilderモードが進化したものが前述のSOLOモードと考えてよいでしょう。
- マルチエージェント・ツールオーケストレーション: TRAEのAIは単一の大規模モデルが全てを行うだけでなく、エージェント同士の協調によって最適化されています。内部には「司令塔」となるメインのAIエージェント(いわばブレーン)が存在し、テスト生成、リンター、ドキュメント要約など専門スキルを持つサブエージェントにタスクを委譲する仕組みです。例えばコードを書いた後、自動でユニットテストを書くサブエージェントや、変更箇所のドキュメントを更新するエージェントが動くイメージです。TRAEではこれを支える拡張機構としてMCP(Model Context Protocol)を実装しており、エージェントが外部ツールやリソースにアクセスできるようになっています。MCPによりWeb検索やドキュメント参照、ターミナル操作などをAIが必要に応じて自律的に行えるため、ツール群がAIの内部に統合された形で動作します。このようなエージェントの自律的なツールオーケストレーションによって、より複雑なタスクも人手を介さず実行できるようになっています。
- 複数LLMの活用と切替: TRAEは裏側で複数の最先端LLM(大規模言語モデル)を用途に応じて使い分けています。開発初期のオープンβ版では、GPT-4、Anthropic社のClaude 3.5/3.7(Sonnet)、そしてByteDance独自のモデルDeepSeekなどが統合的に利用されていました。2025年7月時点ではSOLOモードのAIエンジンとしてClaude-4 (Sonnet) を採用している旨が公式に明言されています。タスクの種類によって最適なモデルをローテーションし、長大なコンテキストが必要な処理では長所のあるモデル(例: Claude)を使うなど工夫しています。またユーザー側でも設定からモデルプロバイダーを追加し、AnthropicやOpenAIのAPIキーを用いて任意のモデルを利用するBYOK (Bring Your Own Key) 機能が提供されています(AnthropicやDeepSeek等のプロバイダーが選択可能とドキュメントに記載)。これによりLLMの切替やアップグレードが可能で、将来的な新モデル(例: GPT-4.5やGeminiなど)が登場してもTRAE上で柔軟に採用できると考えられます。
- マルチモーダル対応: TRAEはテキスト以外の入力も活用できる点でユニークです。例えばデザイン画像からのコード生成がその一つです。FigmaなどのUIデザインのスクリーンショットを貼り付ければ、それを解析してレスポンシブなHTML/CSSコードを自動生成してくれます。実際、「モバイルのモックアップ画像を渡すと、React Nativeの画面を完全生成する」といったデザイン-to-コード機能が搭載されています。また音声入力にも対応しており、まるで同僚に話しかけるようにマイク越しに要件を伝えることもできます。音声で「〇〇を実装して」と言えばAIがそれをテキスト化し理解してくれるため、ハンズフリーでのコーディングも可能です。さらに、生成されたUIを直接触って編集できるビジュアル編集機能も備わっています。SOLOの「Select & Edit」機能では、実行中のプレビュー上の要素をクリックして色やレイアウト等を調整すると、裏側のコードをAIが即座に書き換えてくれます。このようにテキストチャットだけでなく画像・音声・GUI操作を取り入れたマルチモーダルなインタラクションがTRAEの強みです。
- 高度なコード生成支援: もちろん基本的なAIコード支援機能も充実しています。エディタ上ではリアルタイムのコード補完が動作し、現在の編集内容やコンテキストを理解して次の一行やブロックを提案してくれます。GitHub Copilotのような行単位の補完に加え、TRAEでは複数行にまたがる賢い補完や簡易なバグ検知も行います。たとえばうっかりタイポしたりシンタックスエラーを入れてしまった場合、AIが即座に警告して修正案を提示してくれるため、デバッグの手戻りが減ります。また任意の選択範囲について「これをリファクタリング」「このコードの意味を教えて」などと指示すれば、その場で説明や改善案を表示してくれるインラインQ&Aも可能です。自然言語によるスニペット生成もサポートされており、「〇〇という機能を持つ関数を書いて」といった要望に対して該当するコード片を生成します。さらにコメントやDocstringを自動生成したり、正規表現やSQLクエリを要件に応じて書いてくれるなど、多彩な生成系アシストが用意されています。これらの日常的なコーディング補助機能は、TRAE IDE単体のIDEモードでも利用可能で、開発者の生産性を底上げします。
- 既存エコシステムとの統合: VS Code由来の利点として、VS Code拡張機能の互換性があります。TRAEは内部がElectron+VS Codeベースのため、GitHubからリポジトリをクローンしたりブランチ管理を行えるのはもちろん、既存のVS Code用拡張をそのままインストールして使うことができます。キーバインドもVS Code準拠であり、開発者は慣れ親しんだ操作感で移行できるよう配慮されています。そのため言語サーバープロトコル (LSP) によるシンタックス支援や、各種テーマ・Lintツール連携など、VS Codeと同等のIDE機能を犠牲にすることなくAI機能を享受できます。これも単なるプラグイン型ではなく独立IDEとして提供するTRAEの強みで、AI支援とフル機能IDEの融合を実現しています。
以上のように、TRAE IDE/SOLOは自律エージェントによるエンドツーエンドの開発自動化から、日常コーディングの細かな所までカバーする豊富な機能群を備えています。特にSOLOモードの登場により「AIが丸ごとソフトウェアを組み上げてしまう」という世界が現実味を帯びており、他のAIコーディング支援ツールとの差別化要因となっています。
使い方のフローとUI構成・実行例
TRAE IDEの基本的な使い方は、従来のコードエディタのワークフローにAI要素が加わった形ですが、そのUIとフローには特徴的な点があります。
● モード切替とUI構成: 起動後の画面は一見するとVS Codeライクなエディタですが、画面左側に**「Chat」「Builder」といったタブがあり、ここでAIモードを切り替えられます。通常はIDEモード(AIは補助的)で使用し、必要に応じてChatタブでAIチャットウィンドウを開いて質問したり、BuilderタブでSOLOエージェントを起動します。チャットウィンドウはエディタ内に統合されており、右側のExtended ViewにはAIが開いたブラウザやドキュメント、ターミナルの出力などがリアルタイムに表示されます。つまりエディタ・コンソール・ブラウザの3画面が一体化したインターフェースになっており、ユーザーとAIのやり取りと、AIが裏で実行している操作を一つの画面で追跡できます。これはSOLOモード時に特に威力を発揮し、AIがコードを書いたりテストを走らせる様子を人間が横で確認できる仕組みです。画面上部には「SOLOモード↔IDEモード」のトグルが配置されており、一瞬で完全自動と手動モードを切り替えることができます。開発途中で「ここは自分で修正したい」という場合、SOLOを一時停止して手動編集し、また再開するといった柔軟なコラボレーションも可能です。
● プロジェクト作成とAI開発フロー: TRAEでの開発は、新規プロジェクトを作成するか既存のリポジトリをクローンすることから始めます。インストール直後の初回起動では、GitHubもしくはメールアドレスでログインし、フリープランかProプランを選択します。その後、画面左のプロジェクトブラウザでフォルダを開くかクローンを行い、準備完了です。
通常のコーディングでは、適宜ChatモードでAIに質問したり、Ctrl+K
ショートカットで自然言語指示からコード生成させるなどの使い方になります。しかしTRAEの真価はBuilder/SOLOモードを使った自動開発にあります。
TRAEの使用フローは①要件や変更点を自然言語でAIに伝える → ②AIがコードを書き実行する → ③人間が結果を確認し、必要なら追加指示というインタラクティブな反復プロセスになります。エディタ画面と統合されたチャット・ターミナル・ブラウザビューにより、人間とAIが一緒にペアプログラミングしているような操作感が得られる点がTRAEのUIデザインの秀逸なところです。初学者から熟練者まで、対話を通じて実行例を確認しながら開発を進められるため、高速かつ安心感のある開発体験を提供していると言えるでしょう。
他のAIコーディング支援IDEとの比較(Cursor・Continue・CodeWhisperer・Codeium)
近年はTRAEの他にも様々なAI対応IDEやプログラミング支援ツールが登場しています。それぞれ特徴が異なるため、ここではTRAE(SOLO)と代表的なツールであるCursor、Continue、Amazon CodeWhisperer、Codeiumを比較し、その強み・弱みを整理します。
まず簡単に各ツールの特徴を概観します。
- Cursor: CursorはVisual Studio CodeをフォークしたAI統合エディタで、TRAEと同様に独自のIDEとして提供されます。Claudeなど高性能モデルを活用したチャット補助や高度なコード補完を備え、エージェントモードによる複数ファイルの自動編集機能もあります。VS Code拡張のように後付けするのではなく、VS Code互換の独立IDEとしてAIを深く組み込んでいる点でTRAEに近い立ち位置です。Cursorもまた「AIが複数ファイルにまたがるリファクタや機能追加を自動で行う」ことを売りにしており、ChatGPT的な対話UIから「設定ファイルを更新して」等と指示すれば該当箇所を変更してくれます。また
.cursorrules
というプロジェクト内ルールファイルでコーディングスタイルや命名規則を教えておくと、AIがそれに従って動作するカスタマイズ性も備えています。モデルとしてはAnthropic Claude(3.5相当)を主に使用し大きな入力コンテキストに強みがあります。強み: VS Code互換で学習コストが低く、AI機能とIDEが綿密に統合。エージェントモードで自動コーディング可能。弱み: 開発元はスタートアップであり、安定性や最適化では課題も指摘されています(大規模リポジトリでは動作が緩慢になる等)。また音声入力や画像入力といったマルチモーダル対応は限定的です。 - Continue: ContinueはオープンソースのVS Code/JetBrains向けAIコーディング支援拡張です。MITライセンスの下で開発されており、誰でも無料で利用・拡張できます。Continueの理念は「ユーザーの手にAI制御を委ねる」で、カスタマイズ性が最大の特徴です。オープンソースのコミュニティハブに様々な「ルール・プロンプト集」や「ツール連携テンプレート」が公開されており、開発者は自分好みのAIアシスタントを作り込むことができます。また好きなモデルを接続できるBYOM(BYOK)機能があり、OpenAIのGPT系から自前のローカルLLM、Anthropic Claude、さらにはMistralやLlama2なども統合可能です。ContinueにもTRAE同様にAgentモードがあり、VS Code内でターミナルコマンド実行やWeb検索などのツールをAIが使えるようになっています(MCPに対応)。強み: 完全オープンソースで拡張性抜群。自己ホストやローカルモデル利用も可能なためプライバシー面でも安心感。弱み: 初期セットアップやモデルAPIキーの用意など導入ハードルがやや高い点です。標準UIもシンプルで、TRAEやCursorのようなリッチな統合ビューはなく、あくまで既存IDEへのプラグイン拡張なので高度なUI連携機能(例えば対話中の自動プレビュー表示など)は限定的です。
- Amazon CodeWhisperer: CodeWhispererはAmazon AWSが提供するコード補完特化型AIアシスタントです。VS CodeやJetBrains、AWSの自社IDEなどにプラグインとして統合して使います。生成コードのセキュリティスキャン機能がユニークで、脆弱性や秘密情報のハードコーディングを検知すると警告してくれます。AWS提供だけあってクラウドサービスとの親和性が高く、AWSのAPI呼び出しコードやインフラIaCコードなどを補完するときに最適化された提案を行います。訓練データもAmazon内の大規模コードを含んでいるため、AWSユーザーには心強いツールです。強み: 個人利用は無料で、提案回数無制限というコスパの良さがあります。AWS公式サポートによる信頼性や企業向けガバナンス(データ暗号化やリージョン選択等)も整っています。弱み: あくまで行レベルの補完支援が中心であり、TRAEやCursorのような対話的な指示でマルチファイルを編集するエージェント機能は持ちません。また対応言語も主にPython, Java, JavaScriptなどメジャーどころに限られ、サポートIDEもVS CodeやJetBrains系に限定されています。汎用性よりAWS開発に特化したツールと言えます。
- Codeium: CodeiumはスタートアップExafunction社によるAIコード補完サービスで、VS Codeはじめ70以上の言語・多数のIDEに対応する広範なプラグインを提供します。個人利用は無償で無制限の単行・複数行コード補完を提供しているのが大きな特徴です。大規模言語モデルを独自訓練しており、GitHub Copilotと遜色ない精度を目指すとされています。またCodeiumは生成コード中にGPLライセンス由来のコードを含まないことを公言しており、法的リスクを低減している点も売りにしています。最近ではVS Code向け拡張にチャット機能も追加され、選択範囲の説明やリファクタ提案など簡易的な対話も可能になりました。強み: 無料で使え、IDEや言語のサポートも非常に幅広い点です。オフラインで使える企業向けオンプレミス版も提供されており、機密コードを外部クラウドに出せないケースでも採用しやすいです。弱み: コード補完の精度や一貫性では依然としてCopilotやTRAEの高度モデルに一歩譲るという評価もあります。また自動エージェント的な機能はなく、開発者主導での補完・チャット支援に留まります。
以上を踏まえ、主要な比較ポイントを表にまとめます。
ツール名 | 提供形態・対応環境 | 自動エージェント機能 | マルチモーダル対応 | 使用モデル・LLM | ライセンス/料金体系 |
---|---|---|---|---|---|
TRAE (SOLO) | 独立IDE(VS Codeフォーク) Win/Mac/Linux対応 | あり(SOLOモードで要件からデプロイまで自動実行) | あり(画像→コード生成、音声入力、GUI編集) | Claude 2 (Claude-4 Sonnet)、GPT-4等を用途別併用 | クローズドソース(OSS部品含む) 現在β版無料(一部Pro専用機能) |
Cursor | 独立IDE(VS Codeフォーク) Win/Mac/Linux対応 | あり(Agentモードで複数ファイル自動編集) | 部分的対応(コード内画像やWeb情報参照可能) | Claude 1系 (Anthropic Claude 3.5) 他 | クローズドソース 一部機能は有料(Proプラン) |
Continue | VS Code/JetBrains拡張 (プラグイン方式) | あり(Continue Agentによりツール統合) | 可能(外部ツール連携設定次第で画像/検索利用可) | 任意(GPT-4/3.5, Claude, Llama2等BYOKで設定) | オープンソース(Apache-2.0) 無料 |
CodeWhisperer | IDEプラグイン(AWS Toolkit等) | なし(オート補完中心) | なし | AWS独自モデル(数十億行で訓練) | クローズドソース 個人は無料・商用は有料 |
Codeium | IDEプラグイン(多数のIDEに対応) | なし(オート補完・チャットのみ) | なし | 独自モデル(非OpenAI系) ※OSS由来GPLコード除去 | クローズドソース 個人は無料・企業向け有料 |
※上記の比較から、TRAE/SOLOは「自律的にプロジェクトを動かせるオールインワンIDE」として突出している反面、他ツールは既存環境へのアドオン的性格が強く、自動化レベルも限定的であることが分かります。それぞれ用途に合わせて選択すべきですが、エージェントAIによる開発フロー全体の自動化という点では現在のところTRAE SOLOが一歩リードしていると言えるでしょう。
自動エージェント機能のユースケース・実用性・技術的仕組み
TRAE SOLOのような自動エージェント機能は、開発の在り方を大きく変える可能性を秘めています。いくつかのユースケースと、その実用上のメリット・課題、および技術的な仕組みについて考察します。
● ユースケース1: 開発者の生産性ブースト
個人開発者にとってSOLOエージェントは頼れる相棒になります。例えば前述のように、既存プロジェクトに一機能を追加する作業をまるごと任せることで、開発者は高レベルな設計やレビューに集中できます。バックエンドエンジニアがフロントエンド実装を急ぎで行わねばならない場面でも、SOLOに「Reactでダッシュボードを作って既存APIに接続して」と指示すれば、自身はReactを学習することなくプロダクトを前進させられます。実際、小規模チームで唯一のフロントエンド担当が手一杯…という場合に、他のメンバーがSOLO経由でフロント機能を代行実装しボトルネックを解消するといった使い方が想定されています。さらに、レガシーコードベースのバグ修正やリファクタにも有用です。自然言語で「なぜ認証ミドルウェアのレートリミットが失敗するの?」と質問すれば、AIがコード全体を読んで原因箇所を突き止めパッチを提案してくれる、という具合に既存コードの理解と修正にも役立ちます。このように、開発者の生産性を最大化し「10倍速でコードを書くエンジニア」を実現するのがSOLOの第一のユースケースです。
● ユースケース2: 非開発者のプロトタイピング
SOLOはプロダクトマネージャーやデザイナーといったコーディング専門でない職種にも新たな力を与えます。プロダクトマネージャー(PM)はアイデアを迅速に試作して検証することが求められますが、開発リソース待ちではスピード感が失われます。SOLOを使えば、PM自らが「プロフィールページにInstagramとLinkedInのリンク編集機能を追加して」と指示し、数分で動く試作品を得ることができます。これにより、アイデアの検証サイクルを飛躍的に短縮し、ユーザーテストやステークホルダーへのデモを即座に行えます。デザイナーにとっても、デザインカンプが実際の動くUIになるまでのギャップを埋めるソリューションとなります。デザインからの自動コーディングや、前述のビジュアル編集機能により、コードを書かずにインタラクティブなプロトタイプを作成できるため、デザイナー自らユーザビリティ検証が可能です。総じて、自動エージェント機能は「作りたい人が自分で作れる」世界を広げ、開発の民主化に貢献します。
● ユースケース3: 全自動のソフトウェア開発パイプライン
究極的には、SOLOエージェントをCI/CDと連携させて完全自動の開発パイプラインを構築することも考えられます。ある機能アイデアが出たらAIがブランチを切り、コードを書き、テストし、Pull Requestを作成。人間はレビューしてマージするだけ、といった流れです。小さな機能改善の積み重ねや、反復の多いテストコード作成など、AIに任せることで開発スループットを飛躍的に向上させるケースが見込まれます。ByteDance自身も社内ハッカソンなどでTRAEを用いて短期間にプロダクトを構築する試みをしているとされ、AIエンジニアがチームの一員として働く未来を実証しつつあります。
● 実用性と課題: 自動エージェント機能は魅力的ですが、現時点で万能ではないことも留意が必要です。まず、AIのアウトプット品質はプロンプト(指示)の明確さに大きく依存します。指示が曖昧だと意図と異なる実装になることがあり、結果として何度も手戻り指示を出す羽目になります(Cursor開発者のレビューでも「指示が不明確だと余計な変更が入る」と指摘されています)。従って人間側にも、要件をきちんと文章化・体系化するスキル(=コンテキストエンジニアリング)が求められます。TRAEはその助けとして、まずAIが受け取った要件からPRD風の仕様書ドラフトを起こしてくれる機能があります。それをユーザーが確認・修正して合意コンテキストを固め、実装フェーズに入るという流れです。このようにコンテキスト(文脈情報)の構築を重視する設計が、TRAE SOLOの「Context Engineering at Its Core」という所以です。
また、大規模プロジェクトへの適用にも課題があります。プロジェクトが巨大になると、AIが把握すべきコンテキスト量も増え処理が重くなります。Claudeなど長大なコンテキストを扱えるモデルを用いているとはいえ、無制限ではありません。実運用ではプロジェクトをモジュール分割し、エージェントが動く範囲を限定するなどの工夫が必要でしょう。さらに、現状のモデルは論理的な一貫性や抜け漏れチェックで人間ほどの完璧さは期待できません。SOLOが生成したコードにはバグが残る可能性もあり、最終的なテスト・検証・コードレビューは人間の責任となります。Jinu氏のSwiftアプリ開発でも、AI任せの初回生成コードには多くの不具合がありましたが、人間との対話で解決しています。こうした人間との協調前提でうまく使えば強力な武器になりますが、盲信してノーチェックで運用すると危険もあります。
● 技術的な仕組み: SOLOエージェントの内部動作について、推察される技術的ポイントを述べます。まずLLMにはAnthropic Claude 2相当の大規模モデルが使われており、約10万トークン以上の長い文脈を保持できます。これによりプロジェクト内の関連ファイル内容や、生成した仕様書、対話履歴などをすべて含めた包括的なプロンプトを与えることができます。AIは与えられた文脈を元にチェーン・オブ・ソート(思考の連鎖)を行い、次のアクションを決定します。必要なアクションには「コードを書く」「テストを実行」「ブラウザでエラーを検索」等がありますが、TRAEでは前述のMCPによりそれらがモデルから直接コールできます。例えば「テストが失敗した→ターミナルでテスト再実行」「エラー内容を解析→関連する公式Docsをブラウザで開く」といった一連の操作を、モデルが自律エージェント(プログラム)として実行できるのです。これはAuto-GPTやBabyAGIといったオープンソースの自律AIエージェントのアプローチに近く、TRAEはそれをIDE環境内に最適化して組み込んだものと言えます。特に副次的エージェント(サブエージェント)の概念により、テスト生成やデバッグなど並行して進められるタスクは並行処理し、最終的にメインエージェントが統合する仕組みを取っているようです。このような高度なエージェントアーキテクチャにより、SOLOは単なる逐次的なコード生成ではなく、プランニング→実行→検証→修正のループを自律的に回せる点が技術的革新と言えます。もっとも、これらは複雑なAI誘導プロンプトやシステム設計によって実現されており、完全なブラックボックスではありません。開発者は随時介入して軌道修正できるよう、前述のモード切替スイッチや逐次ログ表示など人間の監督モードも用意されています。総じて、TRAE SOLOの技術的仕組みは大規模LLM+ツール使用権限+マルチエージェント分業と人間のフィードバックループの組合せで成り立っており、現在考え得る最先端のAI開発アプローチを統合したものとなっています。
開発元・対応LLM・ライセンス・インストール方法等の技術情報
最後に、TRAE IDE/SOLOに関する技術的な周辺情報をまとめます。
- 開発元・プロジェクトの背景: TRAEは中国のByteDance社(TikTokの親会社)が開発・提供しています。元々はByteDance社内向けに開発されたAIコーディングツールがベースになっており、それを海外市場向けにリリースした経緯があります。2023年末~2024年初頭にかけて限定公開され、2024年中頃にはMac版の公開βが開始されました(当初Windows版はウェイトリスト制でしたが、現在はWindows/Linux版もダウンロード可能です)。2025年7月に大型アップデート「Trae 2.0」としてSOLOモードが正式に導入され、Product Huntなどでも発表されています。ByteDanceが手掛けていることもあり、中国語を含む多言語での自然言語入力にも比較的強く(公式発表でも中国語対応をうたっています)、また同社のAI研究部門による最新モデル(例: DeepSeekシリーズ)を投入するなど技術的バックアップがある点も特徴です。
- 対応LLMとモデル切替: 前述の通り、2025年現在TRAE SOLOはAnthropic社のClaude 2 (Claude v4-Sonnet)モデルを主エンジンとしています。Claudeは100kトークンを超える文脈を扱える高性能モデルで、特に大規模コードベースの理解や要約に強みがあると評価されています。TRAEはClaudeの他にもOpenAIのGPT-4相当モデル(「GPT-4o」と呼称)や、自社開発のDeepSeekモデルなど複数を用途に応じ使い分けています。ユーザー側でも、設定画面の「モデル」項目からAnthropicやOpenAI等のプロバイダーを追加し、自身のAPIキーでモデルを利用することができます。したがって、将来的にOpenAIの新モデルや他社LLMが台頭した場合でも、TRAE上で好きなモデルを選択して使い続けることが可能です。なお、現時点ではモデル推論はすべてByteDanceのクラウド上で行われるため、ソースコードなど開発中のプロジェクトデータが一時的にクラウド送信される点には注意が必要です。公式によればコードベースはローカル保存が基本で、必要に応じて一時的にembedding用途でアップロードする場合もテキストは処理後削除するとされています(もっともembeddingベクトル自体はクラウドに残る可能性があります)。企業利用時はこの点のポリシーを精査する必要があるでしょう。
- ライセンス形態: TRAE自体はプロプライエタリ(閉源)ソフトウェアです。公式サイト上ではオープンソースとの明言はなく、代わりに多数のOSSライブラリ使用に関するクレジットが表記されています。実際VS Codeのフォークであることから、VS Code(MITライセンス)をはじめ多くのオープンソースコンポーネントが組み込まれています。しかしTRAE固有部分のソースコードは公開されておらず、GitHubリポジトリ等も存在しません(コミュニティから「オープンソースですか?」との質問もありますが、「現時点でコード公開はない」と公式回答しています)。したがって、CodeiumやContinueのようにユーザーが自前でサーバを立てたり改変するといったことはできず、ByteDance提供のバイナリを利用する形になります。プライバシーポリシーや利用規約は2025年現在ようやく公開されたところで、ローンチ当初はその点が不透明との指摘もありました。企業で利用する場合、機密情報を預けるリスクとベンダーロックインについては検討が必要でしょう。
- 価格とプラン: TRAEは基本機能を無料で提供しつつ、上位プランとしてProプランがあります。無料プランでもチャットや補完など基本的な機能は使えますが、一日のAIリクエスト回数などに制限があります。Proプランでは高速リクエスト枠が拡張され、何よりSOLOモードが利用可能になります。SOLOはProプランに包含され追加料金なしと公式に説明されています。2025年7月時点では月額制課金の詳細は地域によって準備中で、日本からはまだ有料プラン未提供でした。しかし北米等では新規加入に割引を行うなどの展開が始まっています。SOLOモードの利用にはProプラン加入に加え「SOLOコード」と呼ばれる招待コードの適用が必要ですtrae.ai。
公式DiscordやTwitter等で期間限定配布されており、コードを入手するとSOLO機能がアンロックされる仕組みです。これはおそらく負荷調整と話題喚起の目的で段階的に公開しているものと思われます。今後ユーザーベースが拡大すれば、最終的には全Proユーザーが制限なくSOLOを使えるようになるでしょう。 - インストール方法: TRAEは公式サイト(trae.ai)から各OS向けインストーラをダウンロードして利用します。対応OSはWindows 10/11、macOS (11.0+)、Linuxとなっています。Windows版は.exe、macOS版は.dmg、Linux版は.AppImage形式で提供されます。インストール後、前述のようにログインが必要ですが、GitHubアカウント連携も可能なため手軽です。VS Code拡張としての「TRAE Plugin」も一時提供されていましたが(既存IDEにAI機能を組み込むプラグイン版)、現在は独立アプリ版に注力する形となっています。最新バージョンへのアップデートはアプリ内で自動チェックされるほか、Discordコミュニティでリリース告知があります。利用にあたってはPCの性能もある程度要求されます。エージェント実行時にはローカルで開発環境を立ち上げたりブラウザを開いたりするため、メモリ8GB以上・できれば16GB、CPUもマルチコア推奨です(公式ドキュメントに明記はないものの、実際のユーザー報告から)。もっともメインのLLM推論処理自体はクラウド側なので、ネット接続環境さえあれば低スペックPCでも利用自体は可能です。
- 今後の展望: AIコーディングツールの競争は激化しており、GitHub Copilotも「Copilot X」としてエージェント機能を搭載するなど追随しています。また上述のようにAWSもVS CodeベースのAI IDE「Kiro」を発表するなど、新規参入も増えています。その中でTRAE/SOLOが優位を保つには、エージェントの精度向上と対応範囲拡大が鍵となるでしょう。公式いわく「SOLOはあらゆるツールと文脈を横断的に理解し、スタートからフィニッシュまで実機能を届けるコンテキストエンジニアだ」とされ、今後も開発者の“考える”部分以外をすべて肩代わりできるAI同僚へと進化していくことが期待されます。
以上、TRAE IDEとSOLOについて、その概要から具体的な使い方、自動エージェント機能の可能性と仕組み、他ツール比較、そして技術情報まで詳細に解説しました。「人間が舵取りし、AIが実行する」という開発ワークフローは、まさに今後のスタンダードになりつつあります。TRAEはその最前線を行く存在として、AIコーディングの未来を切り拓いていると言えるでしょう。
追記
私は、TRAEのPROにアップグレードして、SOLOのコードも得ることができました。
でも今回調べて思ったのは、お客様から請け負ったプログラム開発には、使えないかなと思うのです。
機密情報を扱うので、不安を感じました。
今回の記事は、GPT-4oでディープリサーチをして、記事を生成しました。